萌出る渦巻きのエネルギー。
死と再生、宇宙のことわり。
この作品が生まれたのは、新緑の季節でした
首をもたげるように、土の中から次々と生まれてくるワラビ。
土器や土偶には、こんな渦巻きの紋様が刻まれています。
土偶はそのほとんどが、意図的に欠けた状態で出土します。
それは「死」を象徴していると思うのですが、決して悲観的なものではないと考えます。
縄文人には「死と再生」の思想が、そこかしこに感じられます
死んだら終わり、ではなく「死」があるから「再生」がある。
老木を養分にして芽吹く若木、
氾濫した川が運んでくる肥沃な大地、
冬の厳しさが連れてくる春の恵み。
それは現代のわたしたちも同じです
辛いと思う出来事も新たなステージへのきっかけであったり
古い体制が壊れることで新たな価値観が生まれたり、世代交代が起きる。
入れ替わる血液と細胞。死んでいく命、生まれる命。
渦巻きはそんな生命の循環。
いやさか(弥栄)には「ますます栄えること。繁栄を祈って叫ぶ声」という意味がありますが
これこそが「いやさか」だと感じました
「死と再生」を縄文人が大切にしていたのは、それが
「宇宙のことわり」だからなのでは、と。
個展の際、何十年ぶりか会いに来てくださった知人から「この絵はどうして『いやさか』というタイトルなの?私はこれを見た瞬間に『いやさか』だなと思った。なぜ知ってるの?」と聞かれました。
彼女の息子さんは長年ボーイスカウトをしており、彼らが「いやさか!」というかけ声とともに帽子を放り投げる、という儀式があるのだそうです。「その時の様子がまさにこの土偶のポーズなの」ということでした。
もちろん私はその儀式を全く知らなかったのですが、彼女はこの作品とタイトルを気に入って、ご自宅へお迎えくださいました。私が知る、小学生だった息子さんはもう社会人。
これからの時代を担う若い方々の未来が、ますます繁栄し希望に満ちた世界にと願います。
「いやさか!」